ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】グリム童話『おぜんや御飯のしたくと金貨をうむ驢馬と棍棒ふくろからでろ』

『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その35

『おぜんや御飯のしたくと金貨をうむ驢馬と棍棒ふくろからでろ〈KHM36〉』

【あらすじ(要約)】

 昔、仕立て屋がいました。息子三人と一匹のヤギがいました。山羊は乳で皆を養っていたので、良い食べ物をもらって、毎日息子たちが順番に牧草地へ連れて行きました。

 あるとき、長男が見事な草の生える墓地で山羊に草を食べさせました。家に帰る時間、息子が「腹が張ったか」と訊ねました。山羊は「腹がこんなに張った。もう一枚の葉もいらないよ、メーメー」と答えました。家に帰り、小屋に繋ぎました。

 父親は「やぎは餌を十分食べたか」と言いました。

「食べたとも。もう一枚も食べたがらない」と息子は答えました。

 父親は自分で確かめたくて「やぎや、腹が張ったか」と聞くと、山羊は「何食って腹が張る。葉っぱは何もなかった、メーメー」と答えました。

 父親は息子に「この嘘つきめ。やぎを日干しにしたのか」と言い、殴って家から叩き出しました。

 

 次の日は次男の順番でした。良い草しか生えない場所を探し出しました。山羊はきれいに食べてしまいました。次男は「腹が張ったかい」と聞くと、山羊は「腹がこんなに張った。一枚もいらないよ、メーメー」と答えました。

 家に帰り、小屋に繋ぎました。

 父親は「やぎは餌を十分食べたか」と言いました。「食べたとも。もう一枚も食べたがらない」と息子は答えました。

 父親は信用せず、「やぎや、腹が張ったか」と聞くと、山羊は「何食って腹が張る。葉っぱは何もなかった、メーメー」と答えました。

「罪もない動物を日干しにするなんて」と父親は喚き、物差しで次男を戸外へ叩き出しました。

 

 順番は三男へ回ってきました。自分こそうまくやろうと、見事に茂っている藪を探し出し、山羊に食べさせました。

 三男は「やぎ、本当に腹が張ったか」と聞くと、山羊は「腹がこんなに張った。一枚もいらないよ、メーメー」と答えました。

 家に帰り、小屋へ繋ぎました。

 父親は「やぎは餌を十分食べたか」と言いました。「食べたとも。もう一枚も食べたがらない」と息子は答えました。

 父親は本当に信用せず「やぎや、本当に腹が張ったか」と聞いてみると、腹黒い動物は「何食って腹が張る。葉っぱは何もなかった、メーメー」と答えました。

「この野郎、嘘の申し子みたいなやつだ。どいつもこいつも務めを忘れやがって、罰当たりなやつらだ」と怒鳴り、物差しで嫌と言うほど殴ったので三男は家から飛び出てしまいました。

 父親は山羊を相手の一人ぼっちになりました。

 

 次の朝、仕立て屋は山羊が大好きなものが生えているところへ行きました。

「今度こそ、腹を張らせるがいいぞ」と山羊に言い、日暮れまで勝手に食べさせておきました。

「やぎ、腹が張ったか」と聞きました。山羊は「腹がこんなに張った。一枚もいらないよ、メーメー」と答えました。

 家に帰り、小屋へ繋ぎました。そして立ち去りましたが、また戻ってきて「これでやっと腹が張ったな」と言いました。しかし、山羊は仕立て屋にも同じように「何食って腹が張る。葉っぱは何もなかった、メーメー」と鳴きました。

 これを聞くと、何のいわれもなく息子三人を追い出してしまったとわかりました。

「この恩知らずめ、ただ追い出すんじゃ物足りない。お前に目印をつけて仕立て屋の間にもう顔出しできなくさせてやる」と怒鳴りました。

 仕立て屋は山羊の頭に石鹸をつけ、つるつるに剃ってしまいました。それから鞭で引っ叩いたので、山羊は逃げて行きました。

 本当の一人ぼっちになり、息子たちを呼び戻したくなったのですが、行方がわかりません。

 

 長男は指物師の見習いになり、年期がすんで修業に出るときがくると、親方が小さなお膳をくれました。

 このお膳はありふれた木でできているのですが、大変重宝なものでした。誰でも「おぜんや、御飯のしたく」と言うと、お盆が出てきて、ナイフとフォーク、煮たもの焼いたものがのった皿が並べられ、赤ワインの入ったグラスも光り、嬉しくなります。

 心掛けのよい職人は、これがあれば一生涯もう望みはないと、宿屋や食べ物に無頓着です。気分次第で宿屋に泊まらず、好きなところでお膳を出し「御飯のしたく」と言います。すると何でも出てくるのでした。

 

 職人は父親のところへ帰ってみたくなりました。この「おぜんや御飯のしたく」を土産にすれば喜んでくれるだろうと思ったのです。

 帰り道で、客でいっぱいの宿屋に来ました。客たちは喜んで迎え、一緒に座って食べなさい、そうしないと食べ物はなかなか手に入らないと言ってくれました。

 職人は「皆さんのものを横取りするのは嫌です。それより私の客になってもらいましょう」と答えました。

 職人はお膳を据えて「おぜんや、御飯のしたく」と言いました。まばたきする間にご馳走がお膳の上に並びました。

「皆さん、ご遠慮なく」と職人が挨拶しました。客たちはナイフをとってつかみ取りを始めました。一番驚いたのは、皿が空になった途端、山盛りになった皿がひとりでに出てくることでした。

 宿屋の亭主は様子を眺めていて、こんな料理人がいたら重宝するなと思いました。

 職人とその仲間たちは夜更けまで楽しくやっていましたが、やがて寝てしまいました。職人も寝床に入り、打ち出のお膳は壁に立てかけておきました。

 亭主はいろいろ考え、ガラクタ部屋にこのお膳と瓜二つの物があるのを思い出すと、それを打ち出のお膳とすり替えてしまいました。

 

 次の朝、指物師は宿賃を払い、例のお膳を背負うと、偽物とは夢にも思わず旅を続け、父親の家に着きました。

 父親は大喜びで息子を迎え「お前、どんなこと習った?」と言いました。

「私は指物師になりましたよ」

「良い仕事だ」と父親は答えました。「修業先から何か土産を持ってきたか」

「私が持ってきたのは、このお膳ですよ」

 仕立て屋は「これは古ぼけたお膳だ」と言いました。

「だけど、これが自分で料理を出すお膳なんですよ」と息子は答えました。「私が言いつけると、すぐさまとびきりの料理がいくつも出てきます。それにワインまでね。親戚や友達を呼んでください。ご馳走します」

 

 呼んだ人たちが集まると、息子は部屋にお膳を据えて「おぜんや、御飯のしたく」と言いました。しかし、お膳はぴくりとも動かず、何も出てきません。

 これで職人はお膳がすり替えられていたことに気付きました。親戚は息子を嘲笑い、飲まず食わずで帰るしかありませんでした。

 父親は仕舞い込んだ布地をまた出してきて仕立て仕事を続けました。それから息子は親方を見つけて仕事に出ました。

 

 次男は、粉ひきで見習いになりました。年期を勤め上げると、親方は「お前はとてもよく勤めたから、変わった驢馬をやろう。そいつは車も引かない、袋も運ばないよ」と言いました。

「では、何の役に立つんですか」と若い職人は訊ねました。

「金貨を吐き出すよ」と粉ひきが答えました。「そいつを布の上に立たせて、ブリックレーブリットと言えば、後ろから前から金貨を吐き出してくれる」

 職人は礼を言って、世間に出て行きました。

 職人はしばらく世間を見て回って「父親の顔を見に行かねば。金貨をうむ驢馬を土産に持って行ったら、家に入れてくれるだろう」と思いました。

 この息子も兄のお膳がすり替えられた宿屋に泊まることになりました。息子が驢馬を引っ張っていくので、宿屋の亭主が驢馬を受け取って繋ごうとすると、「自分で小屋に連れて行き繋ぎます」と言いました。

 亭主は変だなと思いました。そして、この客がポケットに手を入れると、金貨を二枚出して、上等な食事を仕入れてもらいたいと言うので、亭主は駆けずり回って一番上等なものを探しました。

 

 食事の後、その客があといくら足りないかと聞きました。主人はうんと取るつもりで、金貨をあと二つ三ついただきたいと言いました。

 職人はポケットに手を突っ込みますが、金貨が切れていました。「ちょっと待っててください」と言い、食卓にある布を持って出て行きました。

 亭主はそっとついて行くと、客が家畜小屋の戸にかんぬきをかけたので、節穴から覗いてみました。

 客は布を驢馬の下に敷いて「ブリックレーブリット」と叫ぶと、驢馬は後ろ前から金貨を吐き出しはじめ、雨のように落ちるのです。

「金貨がたちまちできてやがる。こういう財布は悪くねえぞ」と亭主が言いました。

 客は勘定を払い寝てしまいましたが、亭主は夜に家畜小屋へ忍び込み、別の驢馬を繋いでおきました。

 

 次の朝、職人は驢馬を連れ立ち去り、自分では金貨をうむ驢馬を連れているつもりです。

 父親のところへ着くと、父親は喜んで息子を迎えました。

「お前、何になったな」と父親が訊ねました。

「粉ひきですよ」と息子が答えました。

「修業の旅の土産は何だい」

「驢馬一頭だけですよ」

「驢馬はここいらにたくさんいる」と父親が言いました。「どうせなら山羊の方がよかったなあ」

「それはそうですが」と息子は答えました。「こいつは普通の驢馬ではなくて、金貨をうむ驢馬です。親戚を呼んでください。皆を金持ちにしますよ」

「そうなれば、もう針仕事をしなくていいんだ」と仕立て屋は言い、親戚を呼び集めました。

 

 皆が集まると、粉ひきは布を広げて、部屋に驢馬を連れてきました。

「よく見ていてください」と言って「ブリックレーブリット」と叫びましたが、落ちたのは金貨ではなく、この動物がその技を知らないのがわかりました。

 粉ひきはしょげ返りました。騙されたことに気付き、親戚に謝りました。親戚の人たちは貧しいままで帰りました。仕方ないので、父親はもう一度針仕事をはじめ、息子は粉ひきへ雇われることになりました。

 

 末の弟は、ろくろ細工師へ弟子入りしました。これは技術の細かい仕事なので、習うのに一番時間がかかりました。

 兄たちはこの弟に手紙で、自分たちが例の宿屋の亭主から魔法の宝物を盗みとられたことを知らせました。

 このろくろ細工師も仕事を覚え込んで修業に出ることになると、褒美に親方が袋を一つくれて、「この中には棍棒が一本入っている」と言いました。

「袋は身に着けられ、役に立つでしょう。でも、棍棒は何になりますか」

「誰かお前に悪いことをしたら、棍棒、袋からでろって言えばいい。そうすると、棍棒が飛び出て、やつらの背中を踊り回って、一週間身動きできないようにしちまう。お前が棍棒、袋の中へと言うまで止めない」

 職人は礼を言い、袋を肩に引っ掛けました。手出しをしそうな者がいると、「棍棒、袋からでろ」と言います。その途端に棍棒が飛び出して、相手の背中を叩き、その素早いことと言ったら、おやっと思うときには自分が殴られる番になっているのでした。

 

 若いろくろ細工師は兄たちが騙された宿屋に着きました。背負っている袋をテーブルの上に置き、世間で見た珍しいものの話を始めました。

「おぜんや御飯のしたく、金貨をうむ驢馬、いろんなものがある。確かにすごくいいものだが、私が手に入れた宝物に比べたら三文の値打ちもないものさ」

 亭主は聞き耳をたて考えました。「あの袋には宝石が詰まっているのだろう。こいつもちょうだいしておかねば」

 寝る時間になったので、客は腰掛けの上に長くなって例の袋を枕代わりにしました。

 亭主は客が眠ったものと思いやってきました。そして、その袋を他の袋と差し替えられるかどうか、用心して引っ張ってみました。ところが、ろくろ細工師は待ち構えていたので、亭主が引っ張ろうとした途端に「棍棒、袋からでろ」と怒鳴りました。あっという間に棍棒が出てきて、亭主をぽかぽかやりました。泣き喚きましたが、ますます背中を殴りつけるので、とうとうぐったりしてしまいました。

 これを見て、ろくろ細工師は「おぜんや御飯のしたく、金貨をうむ驢馬を返さなければ、もう一度踊らせるぞ」と言いました。

「とんでもない」と亭主が蚊の鳴くような声を出しました。「何でも出しますので、このちび鬼の化け物だけは袋に戻してください」

 職人は「心を改めるなら許してやる。二度とするなよ」と言い、「棍棒、袋の中へ」と声をかけ小鬼をおとなしくさせました。

 

 ろくろ細工師は次の朝、盗まれたものを持って父親のところに帰りました。

 仕立て屋は喜び、この息子にも他所で何を習ってきたのか訊ねました。

「私はろくろ細工師になりました」

「技の細かい仕事だな、修業から何を土産に帰ってきたかね」

尊い物ですよ」と息子は答えました。「袋に入っている棍棒なんです」

棍棒だって。そんなもの持ってきてもしょうがない。どの木でも伐ればできるじゃないか」

「そんなありふれたものとは違います。私が、棍棒、袋からでろと言うと、飛び出してきて、何か悪いことをしようとする者に酷い踊りをやるんです。この棍棒で泥棒の宿屋の亭主が兄たちから盗んだ宝物を取り返してきました。兄たちを呼んで、親戚の人たちにきてもらいましょう。皆に食べたり飲んだりさせてあげ、ポケットに金貨をいっぱい詰め込んであげますよ」

 

 父親は信用しませんでしたが、親戚を集めました。ろくろ細工師は布を部屋に広げ、驢馬を連れてきて、兄に言いました。

「兄さん、驢馬と話をなさい」

 粉ひきは「ブリックレーブリット」と唱えました。まばたきする間に土砂降りの雨のように金貨が落ちてきて、皆がとても持ちきれないというくらい金貨を吐くことやめませんでした。(あなたもその場に居合わせればよかったという顔をしていますね)

 その次に、ろくろ細工師は例の小さな食卓を持って来て「兄さん、おぜんと話をなさい」と言いました。

 指物師が「おぜんや、御飯のしたく」と唱え終わるか終わらないうちに、見事な料理がいっぱい並びました。

 仕立て屋はこんなご馳走を自宅では一度もしたことがありません。親戚の皆は夜遅くまでいて楽しそうでした。仕立て屋は針と糸と物差しとアイロンを戸棚にしまい、錠をおろし、三人の息子と楽しく素晴らしい暮らしをしました。

 

 

 ところで、仕立て屋が三人の息子を追い出したのは、山羊のせいですが、どこへ行ったのでしょうか?その話をしましょう。

 山羊は禿げ頭になったのが恥ずかしくて、狐の穴へ潜り込んでいたのです。

 狐が戻ってくると、目玉が二つ、闇の中で光っていたので、驚き逃げて行きました。

 熊が狐に出くわし、茫然としているようなので、「狐くん、どうかしたのか」と言いました。

「恐ろしい獣が僕の穴にいて、火のような目玉で睨みつけたんだ」

「そんなやつ、追っ払ってやれ」と熊は言って、狐と一緒に穴に行き、覗きこみました。しかし、その目玉を見ると、怖気づいて逃げ出しました。

 蜂が熊に出くわし、浮かない様子を見て、「熊さん、仏頂面をしてるじゃないか。いつもの元気はどうしたの」と言いました。

「ギョロ目の恐ろしい獣が狐の家にいてね。追い出せないんだ」と熊は答えました。

「熊さん、君から見れば私なんかシガナイもんさ。意気地のない虫けらで、唾も引っ掛けないくらいのもんだが、手伝いくらいはできると思う」と蜂は言いました。

 蜂は狐の穴に飛び込んで、毛を剃られたつるつるの山羊の頭にとまって、力任せに刺したので、山羊は躍り上がってメーメーと鳴きながら、気違いのように逃げ出してしまいました。その山羊がどこへ行ったのか誰もわかりません。

 

【ひとりごと】

 とても長いタイトルですね。登場する3つの宝物がそのままタイトルになっています。

 内容もグリムには長めです。

 3人の息子を陥れたのは何と飼い山羊。父親も息子より山羊を信じるとは。山羊が稼ぎ頭だったからかな。

 試練は決して無駄にはなりませんね。きょうだいは仲良く、力を合わせて生きることが大切。

 そして、人を裏切る、騙す、人として一番いけないことですね。