ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】『誰かがこの町で』佐野広実 著

【あらすじ&ひとりごと】

 高級住宅街で起きたミステリー。

 安全安心な町を治めようとする裏側には殺人も厭わない、犯罪をも揉み消す人たち、そんなホラーとも言える小説でした。

 

 弁護士の岩田喜久子のもとに一家で失踪した友人・望月良子の娘・麻希が現れ、家族の失踪について調査を依頼する。

 19年前に家族は失踪したが、麻希だけ捨てられ施設で育てられたという。

 事務所の調査員・真崎雄一が調べていくと、一家が住んでいた安全安心の町を唱える鳩羽地区で、過去に起きた小学生誘拐殺人事件との関連が浮上する。

 また、真崎もいじめで娘を亡くした過去を持ち、娘と麻希を重ね合わせ、不作為の罪を抱え悔恨に苦しみながら事件の真相を解明していく。

 

 権力ある者に従い、従わないものは排除していくという町。閉鎖的で、排他的なコミュニティが町を守るという偽善で暴走していくさまを描いた小説ですね。

 

 いくら自分の住む町の秩序や平和を守るためであっても、住民たちが自ら手を下すというのは無理があるかな、現代の地域の繋がりの希薄さを思うと。

 

 でも、「自ら手を下す罪」、「見て見ぬふりをする罪」、「不正や保身のために隠す罪」など、法で裁かれる罪と自身で裁かなければならない罪に揺れ動く心理描写は読み応えがありました。

 

 佐野さんの作品は、テンポがよくて読みやすいですね。前作の乱歩賞受賞作『わたしが消える』を読みたくなりました。

講談社(2022)