【あらすじ&ひとりごと】
伊岡瞬さんの作品を初めて読みました。
『奔流の海』、タイトルからとても不穏な雰囲気を感じながら手に取りましたが、悲しい運命に抗って、その苦しみの中に必ず存在するであろう希望を求め、そして現実から逃げない強い意志を持ち生きる、そんなラストに心が救われました。
静岡県千里見町を襲った台風によって土砂崩れに巻き込まれ、避難時にすり替わってしまった赤ん坊。その不運な運命をたどり、本当の自分を探し求めるひとりの大学生の物語です。
そして、一年前に父親を交通事故で失った千里見町で旅館を営む一人娘のストーリーも同時に進行していきます。
その二人の主人公が登場して、それぞれのストーリーがそれぞれの時代背景で語られ、それらの伏線が一つに集約されていきます。
次々とあらゆる場面が展開していくのだけれど、いったいこれはどこへとつながっていくのかと思いながら、気持ちがはやり次へ次へと頁が進んでいきます。
この中には、虐待や児童施設への入所、里親との生活、大切な人の死など、主人公の心の動きに胸が苦しくなるけど、穏やかに星を眺める主人公の透明さに複雑な気持ちにさせられます。
実の親の存在を知ったら、やはり子は会いたいのか、会うべきなのか。それはもちろん別れ方によるんだろうな。
心をぐっとつかまれた感じがしました。また伊岡さんの小説を読んでみたいと思います。