ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】グリム童話『唄をうたう骨』

『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その26

『唄をうたう骨〈KHM28〉』

【あらすじ(要約)】

 昔ある国で、猪がお百姓たちの畑を荒らしたり、家畜を殺したり、人間を襲ったりするので、困っていました。


 王様は、この災いから国を救ってくれる者には褒美を出すと言いますが、その獣は大きくて力が強いので、誰ひとりその獣が棲んでいる森に行く勇気がありません。


 とうとう王様は、この猪を捕まえるか、殺すかした者には、一人娘を妻にやろうというおふれを出しました。


 この国に二人の兄弟が住んでいました。貧しい男の二人の息子たちが名乗り出て、一か八か危ない仕事を引き受けると言いました。兄は悪知恵があって、自慢の気持ちからやろうとします。弟は無邪気で、素直な気持ちからやろうとしたのでした。


 王様は「おまえたちは、それぞれ反対側から森に入って行け。そのほうが獣を見つけることができる」と言いました。
 兄は日の沈む方角から、弟は日の出る方角から森へ入りました。弟が歩いて行くと、一人の小人がやってきました。小人は一本の黒い槍を持っていて、弟に「この槍をあげよう。おまえの心は邪気がない。これを武器に安心して猪に向かうがいい」と言いました。


 弟は礼を言い、槍を担いで恐れずに歩いて行きました。まもなく弟はその獣を見つけました。猪は弟目掛けて飛びかかってきましたが、弟が槍を突き出すと、猪がぐさりと串刺しになって、心臓が真っ二つになりました。

 弟はこの怪物を担いで、王様に届けるつもりで家へ帰って行きました。


 弟が森の向う側から外に出てみると、森の入り口に一軒の家があって、人が集って、踊ったり酒を飲んだりして騒いでいました。
 兄は、猪は逃げないだろうと、まず酒をひっかけて元気をつけるつもりで、この家に入り込んでいたのでした。


 ところが、弟が獲物を担いで森から出てきたので、兄は弟が妬ましくなって、居ても立っても居られなくなりました。兄は弟に「まあ、入れよ。ゆっくり休んで、飲んで元気をつけなよ」と呼びかけました。
 弟は中に入って、親切な小人が槍をくれて、その槍で猪を仕留めたことを兄に話しました。


 兄は晩まで弟を引き留め、それから二人で出掛けました。
 暗闇の中の小川に架かる橋まで来ると、兄は弟を先に行かせました。そして弟が川の真ん中に差し掛かったところを見計らって、後ろから殴りつけたので、弟は川へ落ちて死んでしまいました。


 兄は弟を橋の下に埋めると猪を担いで、自分が仕留めたと嘘をついて、王様に持ち出し、その褒美としてお姫様を妻にもらいました。


 弟はいつまでたっても帰って来きませんでしたが、兄が「猪が弟を殺したのだろう」と言ったので、誰もがそう思い込みました。


 けれども、神様の前ではどんなことも隠しておくことはできないものです。このひどい悪事も明るみに出ないはずはありません。


 それから何年もたってから、一人の羊飼いが羊の群れを追って、この橋の上を通りかかりました。

 羊飼いは、橋の下の砂の中に雪のように白い骨が一つあるのを見つけて、これはいい笛になると思いました。羊飼いは降りて行って、それを拾い上げると削って、角笛にしました。
 それを初めて吹いてみると、小さな骨がひとりでに唄をうたい出したので、驚きました。


「ああ もしもし 羊飼いのお方、あなたはあたしの骨をふく、
あたしの兄はあたしをころして、橋の下にほうむりました、
ことのおこりはいのししで、めざすはごてんのおひめさま」


「ひとりでに唄をうたうなんて不思議な笛だ。これは王様に持って行かねば」と羊飼いは言いました。


 羊飼いが王様に持って行くと、角笛はまたまた唄をうたい始めました。

 王様にはその歌の意味がわかったので、橋の下の地面を掘り返すと、殺された弟の骸骨が出てきました。
 悪者の兄は、自分のやったことを認めない訳にはいかず、袋の中に縫い込まれて、生きたまま川へ沈められました。
 そして、殺された弟の骨は墓地へ移されて、立派なお墓の中に安置されました。

 

【ひとりごと】

 悪は裁かれ、死んでも正義は勝つということでしょうか。兄弟の間で妬ましく思うのは寂しいですね。

 兄弟は比較されがちだから、愛情が嫉妬へと変わると大きいのかな。

 人間なら誰しも心のどこかに隠れているのかもしれないけど、命を奪うまでいくとこわい。

 

 弟は心がきれいなために、ことが良い方向へと進むが兄に妬まれ殺される。

 兄の心に潜む魔物を見つけられなかったのも、弟のその純粋さ故かもしれませんが、人間同士、ましてや兄弟が観察し合いながら生きていくのも悲しいですね。

岩波文庫(1979)