ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】『十字架のカルテ』知念実希人 著

小学館(2020)

【あらすじ&ひとりごと】

 『祈りのカルテ』がドラマ化されていましたね。てっきり『十字架のカルテ』は、その後を描く「カルテ」シリーズかと思っていました。

 今回は、院内のセクション、登場人物も変わり、精神鑑定医が主人公となり、犯罪者の心の闇に迫る医療ミステリーです。

 最終話では、ダニエルキイスさんの作品を思い出しました。

 

 過去に友人を殺され、自身に十字架を背負う新人医師・弓削凛は、当時の事件の全貌を知るために、日本有数の精神鑑定医・影山司の助手に志願する。

 凛は、影山とともに犯罪者の心の闇に対峙していくが、自分が追い求める過去の事件の真相に向き合うときがくる。

 

 本作品は、五話からなる連作短編です。五話目に凛の背負う十字架の真相が明らかになり、目指すべく精神鑑定医としての本来の姿に気づいていきます。

 

 各編では、刑法第39条の是非を問うストーリーではなく、容疑者の詐病や被害者家族の憎しみや悲しみなどが描かれる中に、精神鑑定医の苦悩とあるべく未来を見据え考える姿が描かれ、ミステリー仕立てへの強引さを少し感じるけど、エンタメとしてはとてもおもしろい作品でした。

 

 読後はどうしても、本当に裁かれるべき、十字架を背負うべきは誰なのか、裁かれる者が存在しないときはその十字架はどこへ消えるのか、そんな気持ちが残ります。

 その一方で、医師たちは社会のために正解のない、正解があっても形のない、そんな問題に向き合い続けている。人の心に巣くう闇があるとすれば、それを安易に理解できるものではないから、それが続いていく限りは、当事者と医師の葛藤は続いていくのですね。