【あらすじ&ひとりごと】
日本ファンタジーノベル大賞2020優秀賞作品です。
とても物静かな雰囲気と独特な世界観の中に寂しさと温もりが同居するような物語でした。
天空族のセイジ(女性)は、余命が残り少ない老人のために妻の遺した天空語で書かれた日記を読み聞かせてやってほしいという依頼を受け、人里離れた森の屋敷へと訪れる。
そこには、その老人の家族を襲った悲しい事件の真相が眠ったまま、少年の亡霊と過去を秘めたまま消えようとする龍が彷徨う。
そして、彼らを救うためにセイジはある決意をするが、天空族の秘密も解き明かされていく。
タイトルにある「龍」のイメージで壮大なファンタジーものと、勝手に想像して読み始めました。
ちょっとイメージが違ったなあと、はじめは、なかなかこの独特の世界観に入り込めなかったのですが、ストーリーが進むにつれ、不思議な魅力に引き込まれていきました。
天空族という民族と、その異なる思想や死生観というものを民俗学のような感覚で読んでいて、物語の静寂を感じる独特な世界が清涼さを漂わせます。
絆を失くした人が、新たな絆を見つける再生の物語。悲しい事件が起こり、その真相を知ったあと、そんな思いはまるでなかったかのような温もりを最後に残してくれました。