ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】『星を掬う』町田そのこ 著

【あらすじ&ひとりごと】

 町田そのこさんの『星を掬う』を読みました。

 家族、親子って、どうあるべきなのか。分かり合える正しい繋がり方って何だろう。そんなことを考えさせられる作品でした。

 

 芳野千鶴は、小学1年の夏休みに出掛けた母親との二人旅の直後に捨てられ、父と祖母に育てられるが、二人の肉親も亡くし、ひとりとなる。

 高校卒業後就職し、同じ会社の男性と結婚するが、DVで離婚。その後も元夫からは逃げられず、暴力を振るわれ続け、金を取られるという不幸な生活が続く。

 しかし、賞金欲しさに「夏の思い出」をラジオ番組に投稿したことで、千鶴の人生が変化していく。

 その投稿は母親との夏の旅の思い出。それを聞いて、連絡してきたのは千鶴を捨てた母の娘だと名乗る恵真だった。

 そして、千鶴は母の暮らす「さざめきハイツ」を訪れ、母・聖子と再会する。

 そこには、恵真のほか、娘に捨てられた彩子、それぞれ理由を抱えた人たちが共同生活をしており、そこに千鶴も元夫から逃げるため身を寄せることになる。

 

 母娘が再会しても、母に捨てられ、今の自分の不幸を母親への憎しみとして抱える千鶴と、聖子の秘めた思いとのすれ違いが悲しい。

 でもそこに深い傷ができたとしても、根っこに残るのは、やはり愛情なんだと伝わってきます。

 

 自分を見つめて、相手を認める。家族、親子だから支え合う。それは縛り合うのではなくて、互いの尊厳を認め合うことが大切だということ。

 

 幼い子が親から捨てられる、またその逆もあります。愛情があるから憎しみも大きくなる。なかなか頭で考えるより難しいことですが。

 

 千鶴と再会したとき、聖子は認知症を患っていた。聖子の奥底に沈んでは浮かぶ記憶や感情を掬い取り、それが星のように美しく輝いてほしい。その中に自分の記憶があったら嬉しいと願う千鶴。

 『星を掬う』、切ないけど温かい一冊でした。

中央公論新社(2021)