【あらすじ&ひとりごと】
初めて読んだ伊与原 新さんの作品が『八月の銀の雪』。一話一話の短編集がどれも心地よくて、今回も期待して『月まで三キロ』を読みました。
本作品は、同様に六篇からなる短編集で、伊与原さんが大学で専攻されていた地球惑星科学の知識を織り交ぜながら、人との触れ合いをさらりと描いた、心の奥の琴線に触れる優しい物語でした。
どれも一話が40頁程度なので空いた時間に一編を読むことができます。
『八月の銀の雪』も短編ゆえのさらっと心を流れていく切なさや暖かさが短く綴られていたのですが、本作も気持ちが穏やかになる素敵な物語でした。
六遍の中の表題作『月まで三キロ』では、死に場所を探してタクシーに乗る男性と、その運転手とのエピソード。
運転手は、「月に一番近い場所」へと誘い、「月は一年に3.8センチずつ、地球から離れていってるんですよ」と男性に話します。
各編に織り交ぜられた、そんな科学のお話がとても壮大で、抱える悩みや心配事がほんの些細なことと思わせてくれます。
科学の事象を自然な人の思いに結びつける読後感のさわやかな作品でした。