ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】『火のないところに煙は』 芦沢央 著

【あらすじ&ひとりごと】

 

 芦沢央さんの本は初めてです。作風も知らず、予備知識もなく手にした本、『火のないところに煙は』。

 

 本書はホラー作品なのか、怪談の実話なのか。

 ストーリーは、小説新潮から作家(私)に「神楽坂を舞台にした怪談」の執筆依頼がくることから始まる。

 「私」は迷いつつも過去の悲劇について執筆を始める。

 

 6話の短編を語るように綴られていて、ホラーとかミステリ小説というよりか、体験談を淡々と話しているような、なんかドキュメンタリーっぽさを感じる。

 そんな疑問を持ちながら、読み進めました。

 

 これは芦沢さんが体験(聴いた)したことなのか、あとがきも何もない。

 すべて文章が「私」となっているので、芦沢さんご自身のことだろうかと思わずにはいられない。

 そんな臨場感を感じながら、一話一話の伏線が回収され、結末がはっきりしないところに消化不良を感じつつも、それは現実に起こったことだからと、自分なりに納得し殊更背筋が冷たくなるのを覚えました。

 

 そして、本書のカバーの裏側に血の落ちた染みが印刷されています。

 「染み」という一話があるので、なるほどそういうことかと思っていましたが、読み終えたあとにその染みは作中にあった無数の「ある文字」で書かれていたことに気付きました。

 手が凝ってますね。見落とすところでした。

 

 暑くなる季節に一歩早い納涼の本でした。梅雨が明けた熱帯夜にでもいかがでしょうか。

新潮社(2018)